雨降り
今日も雨降りか。梅雨に入ってまもない蒸し蒸しとした空気に、ため息が漏れる。
洗濯物は乾かないし、仕事へ行く靴は濡れて、手入れも面倒だし、いいことがない。
それでも僕がここにいるのは、ひと月ぶりに恋人に会うから。
あのとき分かれた日も、そういえば雨の日だった。
「濡れて帰るからいいよ」なんて、仕事に戻らなければいけない僕に気を使った、苦笑い。
それが先月のデートの最後だった。
ああなんて最悪だろうと彼女の表情を見て、無理やり傘を押し付けて会社へ向かってしまった。
楽しみにしていたのに、前回のことを思い出したら、余計雨が強くなった気がする。
「ういっす!」
ぼうっとしていたところに、唐突に声をかけられて振り向く。
そこには、心底楽しそうに、いたずらめいた顔をした彼女がいて。
「ごめん、借りた傘忘れちゃった」
なんて僕に言うのだけど、僕にはもう傘なんていらなかった。
今日は久しぶりの快晴だ。
彼女の表情は、僕にのしかかる雨の憂鬱さを消し去るには十分だった。
傘は戻ってこなかったけど、必要ないくらい晴れやかな気持ちに僕はなっていた。
さっきまで支配的だった、鬱々とした気持ちが、
馬鹿らしくおかしく思えてきて
「いいよ、傘なんて。 さあ行こうか」
と半笑いで言った。