駄文をつらねるウェブログ

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今日やることリストのダイエット

急な風に、体がぶるっと震える。

亀のように、マフラーに顔をうずめながら、街を歩く。

やっぱり都会は人が多くて、ガヤガヤしているなぁ。

スマートフォンをちら見しながら、目的の場所へ。

静かな住宅街の一角にある喫茶店。

入店に気づいた店員さんに、一人案内されて席に着く。

ブレンドコーヒーを頼んで、パソコンを開いて作業をする。

となりの席にいたおっさんに、「おい」と声をかけられる。

「お前、語れることはあるか?」

中肉中背、室内なのに帽子を被ってあまり顔が見えないおっさん、身なりは普通。

一言で言えば、よくわからないおっさん。でも、語気はしっかりしていて何か自信を感じた。

「え、あると思いますけど」戸惑いながら応える。

「そうか」その言葉はゆっくりしていて、さっきよりも低かった。

おっさんは、数秒考えたあと「お勘定!」と店員を呼びつけて、そそくさと帰ろうとする。

慌てて、おっさんを制止する。疑問を解決するために。

「あの、なんだったんですか?」

立ち上がってコートを着たおっさんは、座っているこちらを見てあっさりとした口調で答えた。

「お前、集中できてないだろ。そして焦ってる。じゃあな」

呆気に取られている間に、おっさんは店内から出て行ってしまった。

おっさんに話しかけられる前に、やろうとしていたことはなんだったっけ?

なんか妙にたくさんあった気がする。おっさんの言葉が気になりすぎて、思い出せない。

とりあえず、一個一個リストアップしてみようか。

(あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ……)

げげっ。今日やることが50個もあるぞ。

24時間を50で割ったら、7.2分。終わらない。

おっさんは焦ってるって言ってたけど、おっさんのせいでさっきよりも余計焦ってるじゃないか。

ふぅと溜息をついて、もう一度今日やることリストを眺める。なんて忌々しい。

気づく。今日やらなくてもいいことが結構あるんじゃないかこれ。

おっさんの言っていたことは、よくわからなかったけれども今日やることリストのダイエットに成功した。

これはフィクションです。