突き放された
前の患者の記録をつけているのだろうか。私は診療室に用意された丸椅子に座って医師がペンを走らせているのをみている。少しだけ待たされて医師がこちらを向く。
「気分はよくなりましたか?」
「ええ。だいぶ」
以前この医者が出してくれた薬で、私の症状はかなり改善していた。
「そうですか、それはよかった」
医師は安心した様子で、何か手元でメモを取った。視線をカルテに留めたまま、続けて口を開く。
「ところで、満足しましたか?」
医師の真意が読み取れず、戸惑った。医師は依然メモを取り続けていて、影になった表情からは何も察することができない。きっと私は阿呆な顔をしていたと思う。
「わからないなら、大丈夫ですよ。引き続きお薬出しておきますね。お大事に」
医師はこちらに向き直しながら、笑顔で私の顔を見てにこやかに、そう言った。一方的に別れを切り出された私は、すごすごと帰るしかなかった。