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どん底に落ちたいときは、NHKにようこそ

NHKにようこそ』という小説がある。引きこもりを題材にした小説で、中学生のときに私は出会った。

当時の私には、なかなかに刺激的で新しい世界を広げてくれた。それが良かったのかどうかはわからないけれども、一生懸命もがき苦しむひきこもりの姿に、自分を重ね合わせて何度も読んだ本だ。

中学生のときには、多少コミュニケーション不全で浮いた存在となっていた私だったけれども、そういう自分と似ている箇所があったのかもしれない。今思えば、タバコへのあこがれもNHKにようこその主人公(佐藤くん)が吸っていたからかもしれない。

とりわけ共感したのは、「他人の囁き声が、自分を糾弾する声に聞こえる」というものだった。外を出たら、「あの子は引きこもりで〜」と後ろ指を刺されているように思えてくる。被害妄想だとわかっていても、そのように感じてしまう。その認知的なズレというのはどうして起こるのか。心理学とか学べばわかるようになるだろうか。特定の人に言わせてみれば、自意識過剰だと一蹴されかねない。

NHKにようこそ』と出会ったのは、アニメが先で、次に漫画、最後に原作小説だった。主人公の佐藤くんは大学を中退してニートをやっているけれども、彼的には一生懸命生きていたように私には見えた。もがき苦しむけれどもそれが報われない、あるいは間違った方向へもがいている。そんな印象を受けていた。ただぐーたらしているだけの作品だったら、私はそこまで惹かれなかったと思う。当人は懸命だけれども世間一般(これは幻想かもしれないけれども、ペルソナ的なものかもしれないけども)にとってはほとんど無意味なこと、というギャップが魅力的に見えた。

「がんばって外に出る」「他人と言葉を交わす」という日常を暮らす人にとっては、誰でもできることが彼にとっては困難だ。

結局、頭の悪い選択ばかりしてしまうけれども、なんとか今の生活を脱したいという気持ちを持っていた佐藤くんの姿を応援していた。彼にとって理不尽なことがたくさん起こるけれども、周りに支えてもらってなんとか解決していた(解決とは言えなくても先延ばしにした)。

その姿を見ていると、情けなくてこっちが悲しくなってくる。彼自身と重なる部分もあって、余計気が落ち込んでくる。

彼の愚行を見ていると、自分の悩みを棚上げして安心して落ち込める。たびたび私がどん底に落ちたいと思ってNHKにようこそを手に取るのは、そういう理由なんだろう。

今の悩みを忘れたい、そういうときに『NHKにようこそ』を開こう。個人的には漫画版が好き。